<11>未来に向けた”百貨店”の強み ~三越伊勢丹(後編) – 朝日新聞

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 伊勢丹新宿本店を訪れるとチェックするブランドのひとつが「ナンバートゥエンティワン」。伊勢丹の靴のバイヤーと、浅草にある靴のメーカーが直接やりとりして作っている百貨店オリジナルのPB=プライベートブランドで、2005年にスタートしたものです。売り場とメーカーが直接モノ作りすることでニーズに応えた商品を作ること、百貨店が問屋を介さずメーカーと組んで在庫リスクを負うこと――三越伊勢丹グループが行っている「仕入れ構造改革」の一環でもあるのです。初期に作った「低めで履きやすいパンプス」がロングセラーとなった「ナンバートゥエンティワン」は、品ぞろえが広がるとともに、バッグへと領域が広がっています。

 本連載の前回前々回では、百貨店の定休日や営業時間について、デパ地下に軒を連ねる「食品会連絡共生会」が百貨店と協議して、両者にとっての改善策を議論していることに触れました。最終回である今回は、百貨店の抱えている課題と、みらいに向けた“百貨店らしさ”について触れたいと思います。

百貨店と消費者の間に生まれた溝

 百貨店ビジネスとは、大雑把に言うと、家賃が高い場所で多くの人件費を割くコスト構造の上に成り立っています。驚くほど利益が低い業態であり、営業利益が1~2%という薄利の中で運営されてきたのです。それでも、右肩上がりで経済が成長している時代は、大きな利益をはじき出してきました。

 第2次世界大戦後の復興から1960年代にかけて、百貨店は海外の文化を先んじて紹介してきました。ファッションでは、海外の一流デザイナーをいち早く導入し、“目利き”としての役割を果たしてきたのです。

 たとえば西武は「エルメス」や「ジョルジオ・アルマーニ」、伊勢丹は「カルバン・クライン」や「カール・ラガーフェルド」など、豪華なフロアを設け、流行スタイルの先端を並べて見せていました。80年代後半のバブル景気下では、さらに拍車がかかりました。多くの百貨店が、「シャネル」や「ルイ・ヴィトン」など欧米の著名ブランドの大型ブティックが軒を連ねるショッピング街を作ったのです。それが、バブルがはじけ、リーマンショックが訪れ、戦後から一貫して伸び続けてきた売り上げが、1991年の9.7兆円をピークに前年割れするようになり、2016年には6兆円を割り込むにいたったのです。

 なぜ、このような事態に陥ったのでしょうか。理由は、百貨店と消費者の間に生まれた溝にあります。90年代に入った頃から、暮らしを取り巻くさまざまなものへと人々の関心は向かったのに、百貨店は売り上げを優先し、効率の悪い家具や家電、生活雑貨などを縮小。逆のベクトルに向かっていったのです。

“エキナカ”や“エキウエ”人気の結果……

 さまざまな商品を組み合わせて見せる力でも、百貨店は遅れをとりました。“エキナカ”や“エキウエ”など、駅を取り巻く便利なロケーションに、服のブランドと化粧品や生活雑貨のショップが並んでいるファッションビルが、若い層にとって魅力的な場として人気を集め、従来の百貨店の客は奪われ、売り上げ低迷が続くようになりました。

 しかも、抜本的なコスト構造の見直しも、なかなか進みませんでした。百貨店におけるビジネスの大半は、消化仕入れと呼ばれるもの。店頭に置かれた商品は、売り上げが上がった分だけ仕入れとして計上されているのです。逆に言えば、店頭で売れ残った商品は返品されます。欧米の百貨店の大半は買取仕入れですが、日本はそうなっていないのです。 中には消化仕入れが9割以上を占める売り場もあるというから驚きです。これは百貨店業界の慣習のひとつであり、リスクを負わないから利益も大きくは見込めない構造になっているのです。各百貨店とも生き残りをかけ、販売員を減らして人件費を削減する、利益率の低い売り場を撤廃するなど、コスト削減による巻き返しを図っていますが、経営が行き詰まって閉鎖を余儀なくされる百貨店も目につきます。休業日をなくして営業時間を延長するのも、何とか売り上げアップを目指してのこと。中には、場所貸し業に徹して、ファストファッションブランドや大手家電量販店を入れる百貨店や、若者に人気があるファッションビルをまねて、同様のブランドを集積したフロアを設け、大々的に展開する百貨店も出てきています。他業態の強みと同じところで勝負するのではなく、独自性を打ち出していくことこそが大事だと思うのです。

「百貨店力」という本質的な強み

 では、百貨店における“らしさ”とは何なのでしょうか。それは、並んでいる商品の確かさ、ユニークさにもあるでしょうし、商品と商品を組み合わせて見せる面白さにもあります。ブランドを越えてお客のために最適な商品を選ぶ丁寧な接客も、百貨店が本来、得意としてきたところ。そこに信頼を置くから、顧客がついてきたのではないでしょうか。そういった本質的な強み=“らしさ”に立ち戻り、「百貨店力」として、強く打ち出すことが肝要だと思うのです。

 たとえば、婦人服飾雑貨、化粧品、婦人服、紳士服といった商品のくくりを越え、編集力を駆使したライフスタイル提案型の売り場を創る。本当の目利きが選んだセレクトコーナーを設ける。ブランドとブランドを越えた接客を、すべての販売員がしてくれる。そのためには、「仕入れ構造改革」のように、取引の仕組みを抜本的に見直すことが必要ですし、本連載の前号で触れた、販売員の働く環境を整えていくことも大切です。

 一連の取材を終えて印象に残ったのは、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長が「全館休業日にした翌朝のスタッフの笑顔が格別。心身ともにしっかり休めばお客様に本当の笑顔を提供できるのだと確信しました」とうれしそうに語っている姿でした。

 新しい時代へ向けて、目の前にある改革に挑むか否かが成否を分ける、現状を守る方向でなく、新しい挑戦をする方向で策を打っていく――そこに活路はあるように思います。百貨店好きなだけに、是非、挑戦してほしいと願っています。

■伊勢丹新宿本店
東京都新宿区新宿3-14-1
http://isetan.mistore.jp/store/shinjuku/index.html

■ナンバートゥエンティワン
http://www.numbertwenty-one.com/

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