欧米の不安定化と、アジアへの追い風 – Campaign Japan

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2017年のスタートは例年とは大きく異なり、ある意味スリルに満ちた展開となった。米大統領に就任したドナルド・トランプが「国民からの負託である米国の雇用を守る」と言って、直接的に企業の経営に介入し始めたのだ。アップルやグーグル、フェイスブック、マイクロソフト、スターバックスといった多くの米大手企業は、大統領が進めようとした移民政策に公然と反発。「エコノミスト」誌の表紙では、「撤退する多国籍企業」という見出しが踊った。日本企業はこうした状況の下、2020年の東京五輪に向けてグローバルブランドを築いていかねばならない。

では、今後どのような事態が想定されるだろうか。そのいくつかを挙げてみよう。

まずは、想定外の出来事だ。現在の地政学的な勢力図は安定性を欠き、政治情勢が急速に変化したり、一触即発のソーシャルメディアが暴発する危険性は非常に高い。英国のEU離脱以降の流れを予測した人々はほとんどいなかったろうし、今後も驚くべき出来事は続くだろう。現時点で言えば、ポピュリズムの勢いがさらに増し、大国間で本格的な貿易戦争が起きることは十分にあり得る。同様に、米国が伝統的価値観に回帰するという反動もなきにしもあらずだ。言うまでもなく、米国はじめ世界各国から輸出のビッグプレイヤーと見なされている日本の大手ブランドは、こうした動向に翻弄されるだろう。

次に、各国政府がビジネスへの干渉を一層強めること。各政府は、国益と自国企業を守るために選ばれたと考えている。それゆえ、どこのグローバルブランドにとっても規制環境は曖昧で、ビジネスを確立していくためには顧客だけでなく、政治家や規制当局、政策立案者などにも目を配る必要に迫られる。

3つ目は、企業の社員や消費者が自分の関わるブランドの原点や価値について、今まで以上に意識すること。1970年代の石油ショックの際に米国や英国がそうであったように、経済的苦境にある時代には国産品を買おうという機運が高まる。つまり人々が、外国ブランドを買うのは自国経済を支えていないことではないか、と考えがちになる。たとえその外国ブランドが、日産やトヨタのように地域経済を支えるため生産拠点を現地に移していたとしても、その傾向は止められないだろう。

最後は、多くの主要市場で「自国重視派」と「グローバリズム推進派」の両極化が進むなか、ブランド製品の購入が政治的意味合いを帯びやすいこと。ブランドは、移民問題などで自社の立場を表明する必要に迫られるだろう。その場合、どちらの側を支持してももう一方の側を遠ざけてしまうリスクがある。どのメディアに広告を掲載するかということですら判断が難しい。最近では米国で、加工食品メーカーのケロッグが極右ニュースサイト「ブライトバード・ニュース」への広告を中止した。この決定が、短期間ではあったが一部消費者に激しい反発をもたらし、トランプ氏の支持者たちはソーシャルメディアを活用してケロッグ製品の不買運動を呼びかけた。移民を受け入れるべきかどうかというセンシティブかつ世間的関心が高い問題は、往々にして中立の立場を保つことは難しい。たとえそれが、その企業の雇用に影響を与えるだけであったとしても。

日本のブランドが海外進出を目指すにあたり、こうした背景は何を意味するのだろうか。この半年間で、米国と欧州の魅力は大幅に低下した。トランプ大統領が大規模なインフラ投資で国内景気を刺激しようとしているのは確かだが、同政権はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を頓挫させ、米国第一主義をより鮮明にしていく可能性が高い。それによって米国市場への参入は一層不透明なものになり、かつての魅力は失われていく。同様に英国市場も先行きが見えにくく、EUも不安定化の懸念がある。ブランドがこれらの市場で大きな賭けに出るのは、もはや難しいだろう。

このような変化は、アジアへの方向転換を魅力的なものにする。もちろん、アジア市場における長期的な成長機会のスケールを考えれば納得のいく話だが、それと等しく重要なのは、ポピュリストやナショナリストによる反動が相対的に小さいことだ。アジアの歩んできた道のりや民衆の気分は、欧米とは根本的に異なっている。

過去20年で米国や欧州の実質世帯所得はむしろ減少したが、日本を除くアジア諸国では大多数の暮らし向きが親の世代よりも大幅に改善した。

民衆の反動がないのは不思議ではない。つまり、反動を起こす理由がないのだ。もちろんアジアにも、政治的な緊張関係や領土問題が存在し、新興国のプライドを政治の道具に利用しようとする政治家たちがいる。しかしこうした要素は、必ずしも消費者の外国ブランド嫌いにはつながらない。

マッキャン・ワールドグループが2014年に行った調査「グローバル・ブランドに関する真実」では、皮肉なことに消費者が国産ブランドを好む傾向が最も高かった国は日本で、グローバルブランドを国産よりも好むと答えた人は21%に過ぎなかった。その理由は、特に政治的なものではない。どの国の消費者も、結局は自分に合っていると思うものにお金をかける傾向がある。日本で国産ブランドが好まれる理由は、消費者が日本製の方が品質が高いと考え(例えば家電や自動車など)、日本人に合っている(美容関連製品や食品など)と考えるからだ。

いずれにせよ、アジアは国際的ブランドに対して比較的オープンな地域だ。インドネシアや中国、フィリピン、シンガポールでは60%以上の人々がグローバルブランドを好んで購入する。そして、世界で最もグローバルブランドを好んでいる地域は香港で、その数値は92%にも達している。

「日本のグローバリスト」は、国際的視点から日本のマーケティングを検証するコラム。ジョン・ウッドワード氏は、日本のマッキャン・ワールドグループのチーフストラテジーオフィサー。これまで英国、フランス、イタリア、オーストラリア、香港で暮らし、グローバルブランドの仕事に携わってきた。

(文:ジョン・ウッドワード 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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