ブロックチェーン は、いかに高級品業界へ浸透していくか:門番の役割から信頼の礎へ – DIGIDAY[日本版]

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高級ブランド業界において、ブロックチェーン技術がもたらす信頼性は、何物にも代えがたいものだ。

高級品を求めるカスタマーにとって、商品の生産地や背景、商品自体の真贋の確証を得ることは重要だ。そんななか、ブロックチェーン技術によって商品がカスタマーの手に届くまでのすべての過程の情報を保持し、ブランドの主張が事実かどうかの確証を得られるようになるかもしれない。少なくともそういう触れ込みがあるのは事実だ。

IBMのブロックチェーンサービスでゼネラルマネージャーを務めるジェイソン・ケリー氏は「ブロックチェーンは最近もてはやされているが、言葉よりも、それがどういった結果を生み出すのかについて目を向けるべきだろう。カスタマーはブランドや業界、自分自身が買った商品の確証が欲しいものだ。商品が高価なときは言うに及ばない。相手を信頼できるか確認したいのだ」と語る。

ブロックチェーンは、カスタマーの商品に関するオープンソースの分散型台帳だ。特定の商品の、サプライチェーン内での動きや情報の蓄積や追跡を行う。それにより、材料調達から製造、小売、カスタマーに届けられるまでの各プロセスで確証が得られるようになる。ブロックチェーンに一度提出された情報は変更や削除できないようになっている。

米広告代理店のデロイトデジタル(Deloitte Digital)のパートナーテクノロジー部門を率いるパトリック・ローラン氏はブロックチェーンとIoT(モノのインターネット)に関する2018年の報告書のなかで、「ブロックチェーンは、現在台頭しつつある『信頼』経済における門番の役割を果たすだろう。そのなかで主役となるのはサプライチェーンだ。サプライチェーンは、ステークホルダー間の信頼が高まるほど効率的に動くようになる。それによりサプライチェーン内での情報の追跡性や信頼性が高まることになる」と分析している。

当然ながらここで問題となるのが、材料調達から小売までサプライチェーンの全段階での信頼性を確保するためには、ブロックチェーンの参加者がオープンソースで協力しあう必要があるという点だ。高級品業界において競合他社同士の秘密の共有はこれまで行われてこなかったことだ。だがIBMのトラストチェーン(TrustChain)をはじめ、製品履歴についての情報ネットワークの作成にブロックチェーン技術を用いている新しいプラットフォームも存在するし、宝飾業界も信頼性のあるデータベースの構想には乗り気だ。こうしたネットワークが実際に開始すれば、それが前例となってほかの高級品業界にも波及していく可能性はある。

本物であることを証明できる強み

ブロックチェーンを導入すれば、ダイヤモンドや金、宝飾業界に不変のデジタル記録がもたらされることになる。こうした業界のサプライチェーンはさまざまな業者によって蜘蛛の巣のような複雑な構造となっていることも少なくない。記録や取引、データが採掘や精製、生産、小売といったサプライチェーンの各段階においてサイロ化されて保存されている。

「とりわけこうした業界において、絶対に正しいという確証を得られるデータが秘める力は計り知れない」とケリー氏は指摘し、次のように説明する。「ひとつのブランドが『我々は偽物と戦う』と言ったところでうまくいきはしない。だがブロックチェーンのネットワークであれば、あらゆる点と点が結びつき、企業同士がデータを共有することになり、透明性が向上し、さかのぼっての調査や追跡が可能になる。それによってカスタマーに対する背景の説明や透明性も確保できるようになる」。

現在、高級品業界が持続可能な生産と材料調達を重視するようになっている。毛皮を使った製品の生産をやめ、繊維の研究所からサプライヤー、生産者までの垂直統合を行い、サプライチェーンの浄化を行ってきた。そうした流れのなかで、ブロックチェーンを導入すればこれまで証明が難しかったことについても説明責任を果たせるようになる。ブロックチェーンは高級品業界を発展させるための新たな投資の核であり、これが各社とも関心を持っているものの、解決できなかった問題の解決策であることを示している。

エイブリィ・デニソン(Avery Dennison)でデジタルソリューションディレクターを務めるジュリー・ロジャー・バーガス氏は「高級品業界とブロックチェーンのもつ可能性は計り知れない」と語り、次のように指摘した。「H&Mの服であれば、消費者も購入してから捨てるまでどのように作られたのかあまり気にしない。だが数千ドルのエルメスのバーキンバッグでは気になるものだ。それぞれのパーツがどこで作られたのか、材料はなにか、デザイナーは誰か、いつ作られたのか。高級品の購入において、そうした情報は重要になってくる」。

トラストチェーンは、アサヒリファイニング(Asahi Refining)、ヘルツベルクダイヤモンド(Helzberg Diamonds)、リッチライングループ(Richline Group)といった宝飾業界他社との提携にはじめて乗り気になっている。だがケリー氏は、ブロックチェーンによって製品履歴に関する詳細な帳簿が手に入ることがカスタマーの購入の最大の要因になることはなく、あくまで最重要なのは価格とスタイルだと指摘している。だが透明性により、決めかねていた人が購入に踏み切る可能性はあるだろう。

デジタル面での提携を採用

リッチライングループのCMO、マーク・ハンナ氏は2006年に、ダイヤモンドと金の生産とマーケティングに関わっている同グループの全企業に対し、企業全体のサーバーに記録することを呼びかけた。ストリング(String)と呼ばれる商品プログラムによって、サプライチェーン全体にわたって透明性を確保し、あらゆる業務を社内データベースで追跡できるようになるはずだった。目指していたのはひとつひとつのダイヤモンドの採掘、製造、小売に至る経路をまとめて記録することだ。だがこの方針はうまくいかなかった。

ハンナ氏は「小売業界にとってはまだ早すぎた。彼らは不安に感じてしまい、商業的に成功を収めたとはいえない結果に終わった」と振り返り、「だがあまり強くプッシュすることもしなかった。グリーンウォッシングだと非難されたくなかったからだ。それでも我々は心から透明性を実現したいと願っていた」と語る。

ハンナ氏は、リッチライングループがIBMのトラストチェーンに参加するための調整役となった。宝飾業界のサプライチェーンのなかで、ひとつの商品を売るまでにどれだけの人たちが関わっているかに思いを巡らせれば、業界全体でブロックチェーンに取り組むべきだと考えたからだ。ブロックチェーンの業界における可能性は、カスタマーからの信頼を築き上げるだけにとどまらず、関わる人すべてにとってより効率的なプロセスが実現するだろうとハンナ氏は考えおり、次のように述べた。

「我々の目標は、このチェーン全体にわたって紙ベースではなくデジタルデータベースの企業となることだ。これによって受けられる恩恵は、カスタマーに対して商品の信頼性を示せることよりもはるかに大きい。こうしたデジタル面での提携により、効率が飛躍的に向上するだろう。以前は不可能だったコミュニケーションの流れが生まれるだろう」。

カスタマーにとっても、業界内部の効率が高まることで業界外部への透明性につながる側面がある。リッチラインの小売パートナー企業にはヘルツベルクダイヤモンドのような宝飾品の大手小売企業も存在する。ハンナ氏は、たとえば結婚指輪のダイヤモンドの組成や採掘情報など、本物であることの証明の情報履歴を引き出すことも可能になるだろうとしている。カスタマー自身が製品履歴を検索できる、カスタマー向けのウェブデータベースも存在する。

「若い世代のカスタマーは、購入するときに非常に熱心に調査をする。それに対し、各企業は誠実で倫理ある対応をすべきだし、これからそうなっていくだろう」とハンナ氏は語り、次のように述べた。「これは真剣に考えるべきことだ。10年後には、カスタマー向けの持続可能な証拠書類が必須要件になっているかもしれない」。

テンプレートの作成

ケリー氏は、トラストチェーンはまず宝飾業界を中心に進めていくものの、サプライチェーンが複雑なほかの業界にも波及させることもありうるとしている。次の段階は、事前投資の価値があるほどの見返りが得られると企業を説得することだ。

ケリー氏は「難しいのは実際にはじめさせることだ。新しいことには困難がつきもので、この新しい事業モデルも例外ではない。だが実施によって得られる結果は大きい。業界全体への信頼が高まる。この信頼が極めて重要な業界でだ。だが業界中の企業をひとつにまとめるのは容易ではない。いちばん大変なのは、実施までこぎつけることだ」と語る。

バーバリー(Burberry)やLVMH、ファーフェッチ(Farfetch)をはじめとする企業は、ブロックチェーン技術への投資をすでに開始しているが、開始にいたるまでのプロセスは、まさにチームの努力によって行われた。競合他社との対立を乗り越えるのは、もっとも難しい障害となるだろう。

ローラン氏は次のように述べた。「高級品業界ですら、複数の企業が『オープンソース』へのためらいを乗り越えつつある。持続可能性という観点から、これは次の段階に進むための自然なプロセスといえるだろう」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:SI Japan)
Photo by Shutterstock





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