棚橋弘至は言った「プロレスは残酷なものであってはならない」…オメガと … – スポーツ報知

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 自分のプロレス観をしっかりと持ったレスラー同士のたっぷり1時間に渡る論争。それは、まさに「言葉のガチンコ勝負」だった。

 新日本プロレス最大の大会、来年1月4日、東京ドームで行われる「WRESTLE KINGDOM13」のメインイベント・IWGPヘビー級選手権で激突する王者ケニー・オメガ(34)と挑戦権利証保持者・棚橋弘至(41)の会見が9日、都内で行われた。

 8日の権利証争奪戦で売り出し中のジェイ・ホワイト(25)を撃破し、3年ぶりに東京ドームのメインイベンターの座を勝ち取った棚橋。新日の誇る「100年に1人の逸材」は前日のメインイベント後のリングで、オメガに向かって言い放った「おまえは賞味期限切れ」と言う言葉の説明から会見をスタートさせた。

 「ケニーの試合の中でいくつものホワイ(なぜ)?があって。プロレスは激しいものであっても残酷なものであってはならないというのが、僕の考え。ケニーは技術も運動能力もビジュアルもすごいけど、昨日、気づきました。プロレスに品がないです。ファンに伝わる前に戦っている自分たちの方が気持ち良くなっちゃっていると思う」。

 これに対し、熱いファイトと裏腹に会見では常に冷静な受け答えをするオメガが明らかに声のトーンを変え、「相手のやっていることに対して、もう少し配慮を持ってコメントすることも大事だと思う」と言い放った上で、こう続けた。

 「おまえは、この団体の暗黒期を乗り越え、支えて来た立役者かもしれない。でも、今現在、この団体を引っ張り、使えない若手レスラーたちに、しっかり給料が支払われるように尽力しているのは誰かということを考えてみて欲しい。それはおまえじゃない。昔からの伝統を引き継ぎ、日本のプロレスというものをしっかりと牽引してきたかもしれないが、それでは世界は変えられない。新日を世界規模にしたのは俺だ。おまえじゃダメだった。おまえはドキュメンタリーでも映画でも楽しんでいればいい。俺は未来のためにここにいる」―。

 初の主演映画「パパはわるものチャンピオン」が公開中。TBS系ドキュメンタリー「情熱大陸」にもプロレスラーとして初めて出演するなど、タレント活動にも注力する棚橋の現状をあざ笑うかのような言葉まで投げつけた。

 立命館大に一般入試で合格、一時はスポーツ新聞記者を目指した言葉の力でこの10年以上の新日のプロモーション活動の一翼を担ってきた棚橋と2009年の来日後、あっという間に流暢な日本語を身につけたインテリ・オメガの、ここまでの熱いやり取りを聞いた時、私はふと気づいた。

 これは、どちらが強いかやチャンピオンベルト争いという域を超えたトップレスラー2人によるプロレス観、互いのプロレスへの大儀、イデオロギーのぶつかり合いの場なのだと。

 棚橋には一時、倒産寸前の危機もあったここ10年の新日を「エース」として支え続けてきた自負がある。この日も口にした「プロレスラーはファンの皆さんに楽しんでもらって、盛り上がってもらってっていうのがある」という信念のもと、計算づくで「チャラくて底抜けに明るい王者」を、あえて演じ続けてきた。

 そんな「エース」が支え続けてきた新日は、来日前に路上プロレスで鳴らしてきたDDT組、オメガや飯伏幸太(36)といったアスリート系レスラーの参入で明らかにハイスパートな戦いが時間の限り続く激闘路線に舵を切った。

 オメガの必殺技「片翼の天使」「蒼い衝動」に代表されるように、フィニッシュホールドには相手を頭からマットに叩きつける荒業が主流に。90年代の全日本プロレスで故・三沢光晴さんや川田利明らが「四天王プロレス」として激しい技の応酬をエスカレートさせていったように、ぎりぎりの戦いこそが売り物になっていった。

 その結果、昨年だけで本間朋晃(今年6月に復帰)、柴田勝頼らの人気レスラーがリング上で負った大ケガのため戦線離脱。今年もIWGPジュニア王者に輝いたばかりだった高橋ヒロムが首の大ケガのため、長期離脱中だ。

 激闘、死闘のエスカレートの末に何が待っていたか。2009年、バックドロップを受けた際の頸髄離断のため、リング上で即死した三沢さんの悲劇は、まだ記憶に新しいのではないか。

 オメガのシングル戦をこの3年で30試合は現場で見届けてきた私も、そこに命がけの凄みと裏腹の“一歩間違えば”大ケガに、いや死に至るギリギリの危うさを何度も感じた。抜群の身体能力で補ってこそいるが、0コンマ1秒、相手の受け身がズレていたら…。ヒヤリとしたことは一度や2度ではない。

 だからこそ、常々、相手の技をきちんと受けた上で勝ち切る「受けの美学」を口にする棚橋は団体のエースとして、オメガの魅力は肯定した上で「プロレスは激しいものであっても残酷なものであってはならない」と言い切ったのだと思う。

 オメガの方を見ながら言った棚橋の言葉。「あのさあ。その変わっていくことがすべて正しいみたいなところを、ちょっと待って、少し止まって考えてみて。全部が良い方向に変化していくわけないじゃん。良い変化もあれば、そうでない変化もある。変わることも大事だけど、俺はプロレスっていうものの本質は、これだけ文化として、伝統として長く続いてるんだから、今も昔も変わらない。ただ、その発信方法、伝え方、表現、表面上のものが変わってきているだけだと考えている」にこそ、私は大きくうなづかされた。

 その一方で一プロレスファンとして、オメガの「自分自身も完璧な人間ではないが、ケニー・オメガとして、本名のタイソン・スミスとして、自分自身を試合ごとに披露し続けている。自分のやっているプロレスこそが品があり、そして、最高に優美なものだと信じている。その優美な方法で完膚なきまで彼を倒し、そして辱めたいと思う」という過激な言葉に魅力を感じる自分もいる。

 プロレスの現場取材に復帰して3年。これだけ中身の詰まった言葉の応酬が聞けたのは初めてだった。真剣そのものの言葉のバトル。そこにはプロレスに懐疑的な人々が時に口にする「だって、プロレスって筋書きがあるんでしょ」なんていう疑問が入り込む余地は、これっぽっちもなかった。

 最後にオメガが思わず口にしてしまった流暢な日本語で「東京ドームの最後をちゃんと締めたいです。平成(最後の大会)とかは関係ないけど」と言えば、棚橋も「(平成最後という)節目で名前を残したいじゃないですか。棚橋の名前を刻みます」と応じた。

 私がそこで見たのは、プロレスを心から愛し、日々、プロレスについて考え続け、命を削ってリングに立ち続ける2人の“ザ・レスラー”の美しい立ち姿だった。(記者コラム・中村 健吾)





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